そのくちづけ、その運命
「井上さん、おはよう」

エプロンを着用し、女子更衣室を出たところで、
そう声をかけられた。

「あ、おはようございます」

声の主は樋口雄二。一つ年上の21歳。
近くの4年制大学に通う、私と同じ学生だ。

ほぼ同じ時期にこのバイトを始めた縁もあってよく話す。まぁ日常会話の範囲内だけど。
そしてなぜかよくシフトが被る。


私ははっきり言って男子が苦手だ。共学の高校を卒業して、地元の女子大学に入ったからかもしれない。
高校までは、決して積極的にというわけではないが、男子とも普通に話せていた。言わずもがな、日常会話、の範囲内でだけど。


けれど、大学に入学してからの3年間で、一気にそういった免疫、耐性がゼロになった気がする。

男子という男子に自分から壁を作り、目を合わせて話すこともままならない。
たぶん彼らの目には、私は超絶挙動不審な奴に映っていることだろう。
そうしている期間がある程度過ぎ、彼らは女子とは根本的に違う種類の生き物だと思うようになっていた。

私みたいな黒髪優等生女子を蔑んでそう……みたいな。

ま、本当は優等生でも何でもないんだけど。
ただ、面倒くさいし似合わないから髪も染めないだけ。
その証拠に、大学で私と付き合いのある友人たちはみんなおしゃれに流行の髪型を取り入れている。


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