サヨナラ、大好きだった。
会場に入る前にドレスに乱れがないか、確認する。
誰かの結婚式で着るためにこのドレスを買ったけど、まさか葉月の式が初めて着るとは思いもしなかった。
受付には葉月のお母さんがいる。
『あら、詩織ちゃんやないのー。まぁ、べっぴんさんになって。わからなかったわぁ。
わざわざ来てくれてありがとうね。
葉月も喜ぶわ。』
『お久しぶりです。この度は娘さんがご結婚おめでとうございます。』
『ありがとう。後で葉月にも話しかけに行ってね。毎日のように詩織ちゃん、詩織ちゃんゆうて話ししとったんよー。』
『はは、小学生の頃の話しでしょう。
是非後で話しかけに行ってきます。』
会釈をしてその場から離れた。
このお母さん話し長いからなぁ。
私は久々な再会に嬉しながらも、どこか嫌な思い出も思いだされてくる。
あの人のこととか…
毎日家まで送っていくと、葉月のお母さんが出てきて
『あがっていきや』って家に入れてくれて、冷たくて美味しいジュースとケーキをご馳走してくれていた。
なんだかんだ、それが目的だった事もある。
陽気な人だから、葉月と話すよりも楽しかったのだ。
『詩織ー。』
後ろから聞き覚えのある声がする。
この声は、と考えていると後ろからタックルされた。
『うわぁ、もう冬花。相変わらず勢いが凄い。』
『えへへ、久しぶりー。元気やった?』
『元気元気。冬花も卒業以来やね。
変わってへんなぁ。』
このこは冬花。
幼稚園からずっと高校まで一緒で、明るく無邪気で可愛い。
『そんなことないー。
私やってもう22やもん。
ちなみにまだ独身。
そーいえば、さっきあっちで美希と会ってんけど綺麗なブランドのドレス着てた。
新婦より目立ったらあかんのにねぇ。さすがや』
と笑う。
『あの子は小学生の頃からきらびやかな服ばっかり着てたもんね。
おじいちゃんが社長やからって』
半分あきれて笑う。
私達より恵まれている事への嫉妬はないことはない。今も昔も変わらず。
幼稚園の時の話。
暑い真夏の日に私は冬花と美希と葉月と遊んでいた。
歩いているときに、アイスをこぼしてしまった。
『どーしたん?詩織ちゃん?』
思わず、泣き出してしまった。
『うっ、お母さんにもらったおこずかいを貯めてやっと買えたアイスやのに。』
『詩織ちゃんアイスいる?
おじいちゃんに何本でも買ってもらえるからええよ。』
『本当?』
そして、美希は私の手を引いてアイス屋の前に行った。
『美希、どーしたんや。』
『おじいちゃん、詩織ちゃんがねーアイス欲しいって』
『そうか、おじいちゃんが買ってやるさかいにな。』
その時は大分とおこずかいが少なかったし、アイスが貴重だったから、美希の行動には凄く感動したことを覚えている。
今思えば、孫の友達にアイスを奢るのは珍しいことではないけど懐の広い人なんだろうな。
『そろそろホールに入ろう。』
『そーやね。どこ座ろうか。』
前の方は親族が占領している為に後ろの方に座った。
会場の電灯が落ちて、スポットライトに照らされた司会者の挨拶が始まった。
順序よく進み、とうとう新郎新婦の登場になった。
暖かい拍手に迎えられ、騒がしくなってきた。
葉月は10数年前と比べて格段に美しくなっていた。
あの頃と変わらず、今流行りのピンクや柄ではなく王道の純白のウエディングドレスを選んだのだ。
あまりにも綺麗な衣装を身につけているから、
どす黒い感情が出そうになった。
でも、今日は久しぶりの同窓会だと思って楽しまないと。