取り込む家
現実を付き尽きられた俺はゆるゆるとため息を吐き出した。


しかし、自分の記憶すら持っていないとは思ってもいなかった。


さっきまではここはどこだという疑問だけで頭の中は一杯だったのに、今は自分という人間が誰なのかすらわからなくなってしまった。


ん? 待てよ?


俺は本棚へ視線を向けた。


推理小説が沢山並んでいる。


俺はこの本棚を見た時、自分の好きな推理小説だと感じた。


ということは、俺の記憶は完全には失われていないはずだった。


俺は本棚へ向かって這いずって行くと、その前で止まった。


口を使い、どうにか一冊の本を取り出すことができた。


その本は有名な作家の推理小説で、俺はまだ未読の作品だった。


他の本を確認してみても、まだ俺が読んだ事のない本ばかりが並んでいることに気が付いた。


犯人は俺の事を良く知っている人物かもしれない。


そして俺の記憶もおぼろげながら残っていると言う事だ。

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