取り込む家
目が覚めた時は力が入っていた体なのに、今は車いすがないと移動することもできない。


「筋力は徐々に回復していくって、先生言ってたから」


車いすを押しながらそう言うサキの声は震えていた。


相当心配をかけてしまっていたようだ。


トイレの前まで移動してくると、担当の看護師さんがサキと交代してくれた。


さすがにここから先をお願いするのは気がひけたからだ。


「自分の顔が見たいんだ」


トイレに入ってすぐ俺は看護師にそう言った。


トイレはサキから離れて自分の姿を確認するための口実だったのだ。


「鏡はここにあるよ」
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