取り込む家
☆☆☆

それから数時間後。


ベッドで本を読んでいた時、玄関が開閉される音が聞こえて来て俺は顔を上げた。


家の外からは車の音が遠ざかって行く。


どこかへ出かけたようだ。


俺は這いずって移動し、穴から部屋の様子を確認した。


部屋は真っ暗で、誰の声も聞こえて来ない。


2人で出かけたのだろう。


暗くなった部屋を見ていると、自分がここで目覚めた時の事を思い出して強く身震いをした。


俺はここで1人だった。


手足を切断され、声も失い、なにもわからないままたった1人でここにいた。


俺は大きく呼吸を繰り返し、穴から目を離した。


あの時の言葉にならないほどの恐怖が蘇って来るのを感じる。


今だって、あの頃と大して変わりはないはずだ。
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