2人の王女と2人の騎士
いつもより人の少ない静かな城内を走り続ける。勝手に足が動いて、息が上がってようやく足を止める。膝に手をつきながら呼吸を整えて顔を上げると横にはあの図書室が見えた。
こんな時にここへ来てしまうなんて…。
私バカだ。辛い思いが込み上がってくるだけなのに。
「失恋…しちゃった」
片思いならまだしも、クライドとティアはどう見ても思いが通じあっている。そう考えると、ティアは今まで私の事をどう思っていたのだろうか。自分と好きな人が同じで、でも自分の気持ちより相手の事を優先させて応援してくれていた。
私、ただの邪魔者だ。
自分の事ばかりでティアの思いに気づいていなかったんだ。恋は盲目っていうけどまさしくその通り。クライドの事で浮かれていた自分が最低に思えた。同時にティアを傷付けていたんだから。
「…セラ」
背後から声が聞こえる。振り返らなくてもイグニスだって分かった。
「はは…。駄目みたいね」
何も言わなくても多分分かっていると思う。
「確信しちゃったら、この気持ちはどうすればいいんだろうね」
イグニスは何も答えない。
「…諦めるしかないよね…っ」
そうだと言ってほしい。
じゃないとクライドを諦めきれない。
ティアを傷付け続けてしまう。
そんな嫌な女にはなりたくない。クライドもティアも大切な幼なじみだから。
「お前はどうしたいんだ?」
「私は…身を引こうと思ってる。でも…でもね…っ」
泣くのを堪えていたら語尾が掠れてしまった。
「…我慢するな」
「…ほんとは悔しいの…っ」
イグニスの言葉が私の思いを引き出すかのようで、本音が漏れる。
「私じゃなくてティアなんだって。ずっとずっと好きだったのに…っ」
堰を切ったように涙が溢れてきた。
するとイグニスは私の体に腕を回してくる。
突然視界が彼の胸でいっぱいになって驚きを隠せない。
「今なら誰も見てない。辛ければ思いっきり泣いていいから」
「…っ」
彼の声に私の目頭が再び熱くなっていく。
こんなにもイグニスの事が大人に見えたのは初めてかもしれない。
この腕の中にいると何だか安心出来たのか、子どものように大声を上げて泣いた。
そんな私を見捨てず、泣き止むまでずっと抱きしめ続けてくれたのだった。