2人の王女と2人の騎士
夕食を取り、湯浴みを済ませ、ネグリジェに着替える。…そろそろイグニスと約束した時間だ。
「ティア、私忘れ物したから取りに行って来るわね」
「ええ、分かったわ」
今はクライドの事で頭がいっぱいなティアをかわすのは簡単な事だった。屋敷に戻ってからというもの、うっとりとした表情でうわの空なんだから。
そんなティアを微笑ましく思いながら羽織を背中に隠し、静かにドアを閉めた。
従者たちもいなくなった静かな1階の広間を警戒しながら小走りで進んでいく。明かりがないから月明かりだけを頼りにするのは何だか不気味
な雰囲気があり、本当にイグニスはいるのかと半信半疑になるくらいだ。
屋敷の入口に来ても彼の姿はない。
「イグニス…?」
扉を開けて名前を呼ぶと、夜の冷たい風が吹いていた。周りをキョロキョロと見回すと、林の方に人影が見え、段々近づいてくる。
「来たか。じゃあ着いてきて」
人影はイグニスだった。
彼はそれだけ言うと、寒さと暗闇をもろともせず先に進みはじめる。
「ちょっと待って!どこに行くのよ」
こんな格好で外を歩くなんて思わなかったら、思わずイグニスを呼び止めた。
「見せたいものがあるんだよ。早くしないと見られなくなるから…ほら!」
そう言ってイグニスは着ていた上着を私の肩に掛けて、手を引いて走り始める。冷たい空気の中、手から伝わるイグニスの体温がじんわりと温かい…。