2人の王女と2人の騎士
私はイグニスに手を引かれたまま森の中を歩いていく。屋敷から離れていくにつれて月明かりも薄暗くなって、木々が風に吹かれてザワザワとした音がより敏感に聞こえてしまう。
「ねぇ、まだなの?」
「もう少し。きっと驚くぞ〜」
含み笑いするイグニスに私は驚いています。
こんな闇夜にそんな顔で笑うなんて完璧悪人面じゃない。
「セラ、今から目閉じて」
「はい?…冗談じゃないわ。さっきからイグニス怪しすぎだし、きちんと言ってくれるなら従うけど」
立ち止まった隙に繋いでいた手をパッと離した。
「怒るなって。それじゃあクライドと同じだぜ?…それとも俺が信じられないのか?」
「うん」
「即答だな。じゃ、ちょっと強引に…」
イグニスはそう言うと私の目を覆い隠して、前に歩き出すように背中を押して促した。
「ちょっと何するの!?」
「…もう、大丈夫だ」
声が聞こえたのと同時に目隠しが解かれる。
そこには暗闇から来た私には眩しすぎる程の光が目の前に広がっていた。
小さな湖を取り囲むものに目を奪われる。
「わぁ…綺麗…!」
日が落ちてからしか咲かない花。
月の光を浴びて、花自身も自ら光り輝く…その花の名は月光花。
大輪の花々が風に揺れて、その光が小さなオーロラのように見えた。
「こんなにたくさんの月光花を見たの…初めて」
「だろ?昨日の夜、部屋の窓からこの光が見えたんだ。すっげー光ってたからさ、もしかしたら群生してるのかと思ったら本当だったな」
「でもどうして私に?」
「…クライドを諦めたお前が元気なさそうだったから、これを見たら元気になるかなーって。なんて、ぶっちゃけ俺も近くで見てみたかったのもあるんだけどな」
子どもみたいな単純な理由に少し笑ってしまった。身長も伸びて、足も速くなってしまったけど、いろんな事をごちゃごちゃ考えるより、感情の赴くままに行動するところは変わっていない。
でも、アレン王子から私を守ってくれた時も、失恋した時も、今も…。
彼はどうして私に優しくしてくれるのだろう。
私は何も返せていないのに…。