2人の王女と2人の騎士


「セラ?」


嬉しくて涙を浮かべる私に、イグニスが顔を覗き込んでくる。



「嫌だったか…?」

「ううん、すごく嬉しい。ありがとう」


ニカッと笑った彼の顔は闇夜の中で輝く太陽のよう。

月の光と、月光花と、イグニスの笑顔…

太陽と月を同時に見ているかのような幻想的な雰囲気があった。






それからしばらく月光花を眺めていると、来た道からガサガサと音が聞こえてきた。それは段々と近づいてきているようで、規則正しい音は人の歩く音のようも聞こえる。


「…何だろう」


イグニスは音のする方をじっと見つめている。



「…小さいけど、クライドの声がする」



「もしかして私たちを探しに?」

「多分な。ちょっと隠れてようぜ」

「えっ?隠れるの?」

「このまま見つかって叱られるのは目に見えてる。…ほら、こっち」



私は言われるがまま、人が隠れられる程の大きな岩の後ろに隠れる。ただ背後に木があって、隙間がとても狭く、イグニスに包まれるような体勢になってしまった。



「イグニスー!セラー!」


岩に隠れて程なく、クライドの声がはっきりと聞こえた。もう湖まで来ているようだ。

するとイグニスは身を縮めようとしているのか、私を包む腕の力を強めてくる。




これでは完全に後ろから抱きつかれているようだ。



イグニスの息遣いが耳元をくすぐる。


近い…近すぎる…!


近い上に、湯浴みの後のふわりとした香りが漂って、私の心臓の音が早くなるのが分かる。






待って?






私、イグニスにドキドキしてる…?






いや、違う。

クライドに見つからないかドキドキしているだけだよね…?






「…行ったみたいだな」



「そ、そうね」



イグニスに言われてからクライドが戻っていったのが分かった。
あんなにクライドの声が近かったのに、聞こえなくなったのに気づかないなんて…。


「俺たちも戻るか。クライドに見つかる前に屋敷に入ろうぜ」


イグニスの言葉に頷くと、後ろをついていくように歩き始めた。




クライドはもうここにいないのに、まだドキドキが治まらない。それよりか前を歩く彼の背中を見つめると更に鼓動が早くなるよう…。


芽生え始めたよく分からない感情に戸惑いながら、屋敷へと戻るのだった。

< 40 / 131 >

この作品をシェア

pagetop