2人の王女と2人の騎士
その夜は離宮で過ごす最後の夜となった。
お母様が戻って良いと言って下さったのだ。
初めは絶望にも似た思いで過ごしていたけれど、最後の夜となると不思議なもの。
寂しいと感じてしまうのだから…。
「あの、お母様。…どうして結婚を許して下さったのですか?」
素朴な疑問だが、私にとっては1番聞きたかった質問だ。
「…私も意地を張るのはやめようと思ってね」
「意地…?」
「…私の昔話、聞きたい?」
私はすぐに首を縦に振った。
するとお母様は昔を懐かしむように語り始めた。
「実はファルサリアに嫁ぐ前に結婚を決めた人がいたわ」
「そうなのですか?」
「ええ。でも私はあなたの父、陛下に見初められてファルサリアの第2王妃になったわ。私の気持ちは無視されて。元々別の国の王子と結婚して正妃になれるはずだったのに、私の人生は狂わされたと思ったわ。…そして、あなたが産まれた。王女だから私が成し得なかった事をあなたが叶えてくれると思って育ててきたの。でもよく考えたら私と同じ思いをさせてしまうところだった。好きでもない人と無理矢理結婚するなんてとても苦しい事なのに、自分の娘にもさせてしまうのかと」
「お母様…」
「ようやく気づくなんて遅すぎるわね。ティアルーシェには今まで辛い思いをさせてしまったわ。それに、セラフィーナ姫にも酷い言葉を言ってしまった。…ごめんなさいね」
そう言うとお母様は申し訳なさそうに謝った。
こんな姿は見たくなかったけれど、心を入れ替えたように接してくれる事に対して嬉しく思っていた。
「いいのです。それよりも、私を…私を産んでくれてありがとうございます。それと、夢を叶えて差し上げられなくてごめんなさい」
するとお母様は一瞬目を見開いて驚き、すぐに微笑んだ。
「いいのよ、夢ではなくて押し付けだったのだから。…ほらもう泣かないで。これからは公爵夫人として皆を支えていかなければならないのだから」
そう言うと泣いている私を抱きしめてくれる。
それは今まで感じた事のない優しい母の温もりだった。