2人の王女と2人の騎士
side イグニス
俺は1人の男に対して苛立っていた。
もちろんレイスフォールのアレン王子に。
大国の王子とはいえ、有りもしない出来事を軽々と言ってのけるあの態度が思い出されて余計に苛立ちを増すばかりだった。
「クソッ!」
怒りに任せて持っていた剣を地面に突き立てる。
「随分とご乱心だな」
気配を感じられない程静かな足取りでクライドがやって来た。1つの事ばかり考えて周りに気がつかなかった。
これでは騎士団長としてありえない
なんて言ってきそうだけど、クライドは俺の隣に腰掛けて城を見つめていた。
「…アレン王子に奪われるのが納得いかないか?」
「…もし王子が誠実な人で、セラを守ってくれるんだったら何も文句はなかった。でも全然違った。大人しくこのまま渡せる訳がない」
正直、陛下の言葉には失望した。
国民に尊敬され愛されている陛下。家族を大切にし、特にセラを溺愛している方だ。
騎士団に混じり、剣の稽古をしたり馬に乗って駆け回る事を許したのは陛下だった。
そんな娘を愛している父親が、迷わず国を守る事を優先させるなんて信じられなかったのだ。
「だが陛下のご命令だ。セラフィーナ姫もファルサリアの王女。立場が分からない子どもでもないだろう」
「ならクライドはセラを王子に嫁がせても良いって事かよ!」
子どもの頃から一緒に過ごしてきたセラに対しての気持ちはないのか。
クライドも…陛下と同じなのか…。
怒りと悲しさで気がついたらクライドの胸ぐらを掴んで睨みつけていた。
「良い訳ないだろう!」
声を荒らげたクライドは俺の腕を掴んで払いのける。
「俺たちが楯突けばレイスフォールは攻めてくる。悔しいが、ファルサリアはレイスフォールを迎え撃つ力は持っていない。お前も騎士団長なら国の事を考えて行動しろ」
クライドの言う事はもっともだ。
陛下も同じ考えなのだろう。
けど権力にものを言わせて嘘をつき、自分の思う通りに行動するアレン王子が許せない。
「もし姫が嫁いだら会える事はほぼないだろう。だが、戦争をするよりセラフィーナ姫の安全は守れる」
「俺はアレン王子がセラを大切にするとは考えられない。セラは生贄のようなものなんだぞ!」
何を言われても納得がいかなかった。
セラを助ける方法以外なんて絶対に賛成出来ない。
「少し頭を冷やして落ち着くんだな。…はぁ…おかげで話の本題が逸れてしまった」
「話…?」
「ああ。1週間後に武闘大会が開かれるそうだ」
「急な話だな。どういうつもりだ?」
「国の防衛力、兵力を高めるためだそうだ。ちなみに俺たちは強制参加だ。優勝者には陛下から直々に特別な地位と賞金が送られるとの事だ」
「そうか…」
はっきり言ってそれどころではないし、褒美にも興味がない。
もし褒美が何でも願いを叶えてくれるというものだったら…間違いなく言っていただろう。
セラを嫁がせないでほしいと。