2人の王女と2人の騎士
第7章 苦渋の決断
side クライド
イグニスと別れた後、城内の静かな廊下を歩いていた。日が傾いた薄暗い道の先に、向かい側から人が来るのが見え、その人物は俺に気がつくと満足そうな笑みを浮かべた。
「父上…」
「こんな所で会うとは珍しいなクライド」
父上はファルサリアの大臣。
お互い城で過ごしているが、仕事が忙しいため顔を合わせる事は滅多にない。
「ところで武闘大会の件、分かっているだろうな?バートレット家の息子には決して負けるでないぞ」
またこれだ。
開口一番にいう事はいつも決まっている。
仕事の事か、バートレット家の事か…。
「手は抜きませんよ。彼も本気で向かって来るでしょう。…ですが、そろそろいいではないですか?俺は今まで父上の思うままに動いてきました。第1騎士団長の肩書きを得たのも…」
「ティアルーシェ姫と婚約出来たのも良くやった」
俺の言葉を遮って父上はそう言った。
元々は父上から言われてティアと恋仲になろうとしたのは事実だ。しかし俺自身の思いで好きになったのが父上の思惑と重なって一石二鳥だった。
でも、もう…。
「俺はこれからは自分の意思で行動したいと思います」
父親の言いなりになるのはもう十分だろう。
しかし父上は急に顔色を変え、厳しい目つきに変わった。
「順風満帆で自分が偉くなったと勘違いしているな?良いか、ブレイクリー家はバートレット家よりも優れていなくてはならない。昔からそうだった。お前はその自覚がないから、イグニスとも仲良しこよしでやってきたのではないか」
「もう良いではありませんか。どちらが優れているなどと比べる必要はありません。お互いの良さを認め、切磋琢磨し合う付き合い方が良いと思います」
「それは絶対にならん」
断固として自分の意見を曲げない頑固さに、俺はため息をついた。
ことごとく父上とは意見が合わない。
「…俺はティアルーシェ姫との事でイグニスに助けられました。彼がいなかったら、今頃ティアルーシェ姫との婚約に至っていなかったでしょう」
そう言うと父上は驚きの表情に変わる。
まさかイグニスがこんな事をするとは思ってもいなかったようだ。
「なんと…っ。…だが…」
「いい加減イグニスを認めて下さい。彼は彼なりに努力しています。武闘大会でもイグニスの実力が分かるはずです」
「……」
父上がバートレット家を、特にイグニスを毛嫌いしているのには訳がある。
何よりも血筋を大事にする人にとっては受け入れ難い事実が…。