FlyFree
ネオンの眩しい光を浴びながら手を繋いで歩いた。

途中で何回かあった女の子の羨望の眼差し。
明らかにいつもの売りとは違う視線だ。

恋人にでも見えるんだろうか。
少し感じた優越感は、彼には内緒にした。

『あんた何て名前?』

『絵理』

『絵理ね、ok。 俺は夏希ね』

『ナツキ? それってお店での名前?』

私がそう言うと夏希は少し笑った。

『本名がいい?』

何それ。
源氏名ってやつ?

まぁ、絵理だって本名じゃないけどね。




ホテルにつくと夏希は手慣れたように部屋を選び、進んでシャワーを浴びにいった。

今のうちに……
そう思って夏希の鞄から財布を出すと、焦って中身が散らばってしまった。

『これ……名刺?』

ブルーの小さな紙にはお店の名前と携帯番号。
そして……

『那津……?』

え?
何それ。
どういう事?

「本名がいい?」ってさっき……

頭が真っ白で、うまく理解できない。

まさか……

『泥棒』

夢中になっていた私は、後ろから近づく人影に気付かなかった。

『いや、覗き魔か』

驚いて振り向くと腰にバスタオルを巻いた夏希が立っていた。

『あは、は…… 見ちゃった……』

『面白いのなかったやろ』

面白いっていうか、なんて言うか……

『本名だったの?』

『うん? 何が?』

『夏希。 源氏名かと思った』

そう言うと夏希は大きな口を開け「何だそりゃ」と笑った。

『8月生まれなんだ。 安直な親でしょ』

夏生まれだから夏希なんだ。
確かに安直かも。

って言うか、

『笑顔、可愛いね』

外では暗くてあまりよく見えなかったけど、中性的で綺麗な顔をしている。

『男に可愛いとか言うなって』

少し不機嫌そうにしてみても、どこか優しげな雰囲気もある。

『で? どうする? 絵理もシャワー行く?』

夏希はそう言ってバスルームを指差す。

……忘れていた。
この人もお客さんって事。

結局、財布を盗る事も出来なかったし。

『そうだね…… シャワー、行かなきゃ』

正直、戸惑いを隠せない。

『ってか、シャワー行かなくていいよ。 そんな必要ないし』

『え……?』

夏希はベッドに腰掛けると、そのままゴロンと横になった。

『早くおいでよ』
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