FlyFree
『適当にくつろいでて。 コーヒー入れるから』

アパートに着くと夏希は一番にそう言ってキッチンに消えて行く。

鞄も携帯も全て私の前に置いたままで……

この前、騙される所だったというのに危機感のない人だ。

それとも盗られていいとすら思っているんだろうか……


それにしても、ホストという割には地味なアパート。

家財道具も必要最低限の物しかないみたい。

『何キョロキョロしてんの』

マグカップを両手に夏希が帰って来る。

『ボロ屋でびっくり?』

『ううん。 そんな事ない』

確かに私が思ってるホストのイメージとは違うけど。

『ベッドとテレビがあったら十分。 どうせ寝るだけだし』

スーツをハンガーに掛け、自分はベッドの上へ。

『お客さんとか来たがったりしない?』

『たまに言われるけど、呼ばないでしょ普通』

『普通……なんだそれ』

『プライベートまで晒してたらもたないって』

と言いつつベッドに転がる。

そんな姿を見せてくれるって事は、お客さんとは違う扱いって事なのかな。

そう思うと何だか少し胸が暖かくなる。

『あ、そうだ。 お金返しにきたんだった』

と、本来の目的を思い出し鞄を手に取る。
そのために連日探してたのだ。

『何で? 前払いっつったじゃん』

『だって、何もする気ないんでしょ?』

やっぱりそんな人からは貰えない。

『トンズラすりゃ良かったのに』

『だって……』

やっぱり余計なお世話だったのか。
あからさまに不機嫌な顔を見せる。

でも後に引けない……

そんな私を見て、1つ大きな溜め息をつく。

『わかったよ。 一回いくら?』

……え?
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