押したらダメだよ、死んじゃうよ
「ちょいちょいちょい。」
……した。
のに、何者かによって腕を引っ張られ、その力に逆らう間もないままわたしの体は後ろに傾く。
ぐらりと揺れて、視界が夜景からくすんだ空に切り替わって、後頭部に激しい衝撃が走った。
「……った、」
あまりの痛さに眉間に皺がよる。
いつの間にか解放されていた手で後頭部を抑えた。
何が起きた…?
一瞬の出来事の何もかもが把握できない。
唯一わかることと言えば、
「お、生きてる。」
死ねなかったっていうことだけ。
コンクリートの上、仰向けに寝転がる体制になってるあたしを真上から見下ろす、男。
その男は軽薄そうな薄い唇をニッと釣り上げている。
「……誰。」
ポツリ、零した声は思いの外低い。
「うーん。誰、って聞かれてもねえ。なんせ初対面だから説明のしようがない。」
開いた親指と人差し指を顎に当て分かりやすく考えてるフリをする男は、飄々とした口調でそう宣うとわたしの顔の横にしゃがんだ。
まるで墨を被ったかのような黒髪。それによく映える白い肌。中性的な顔立ちは淡白そうな印象を抱かせる。
闇夜に浮かぶ瞳は蔦色で縦に細長い瞳孔は猫を彷彿させる。
ハーフかなにかなんだろうか。
それにしては髪が黒いけど。