私たち政略結婚しました!~クールな社長と甘い生活~



「はい?」



気が付いたら口から言葉が出ていた。

パチパチと拍手が聞こえてくる。

それが答えになったらしい。


「承知してくれるのか?
よかった。

花束でも持ってくるんだった。
気が利かなくてすまん。その代り……」

満面の笑みの彼。

あろうことか、輪になって見守っていた、周囲からも祝福のバンザイまでわき起こった。

引くに引けないこの状態。

どうするの、これ。


彼は、立ち上がって、すぐに身をかがめ、私の頬に軽くキスをした。


にこっと笑いかけて、何ごともなかったみたいに、書きかけの用紙を手にしてペンを走らせる。


いや、ちょっと待って。

さらっと書いてる場合じゃないって。

でも……

きれいな指だな。

トントンとテーブルを叩くしぐさがたまらない。見とれてしまう。

私は、彼の指先から流れるようなペン裁きを見ていて、うっとりする。


彼が書いてる用紙は、まぎれもない婚姻届けと書いてある。

いいのか、
くらくらしてないか?私。

岩槻高陽の色気にあてられてるぞ。

高陽さんが書き終えると、用紙を私の方にすっと差し出してきた。


「早く書いたら」
嫌みのないすっきりとした笑顔で言う。

私は備え付けのボールペンを手にした。

人の良さそうな婆さんが、私が用紙に書き込むのを見守っている。

書くってば。

書けばいいんでしょう?


彼は、私ににっこりと微笑むと、高級なペンをさっさと胸のポケットにしまった。

くるんと向きを変えて、携帯電話を取り出してる。

どこにかけるんだろうと、ぼんやり見ていた私に、岩槻高陽がもう一度「早く書いたら」って促した。

なんだこれ。

岩槻高陽の言いなりじゃないの。
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