私たち政略結婚しました!~クールな社長と甘い生活~
「悪いけど、奈央。俺はこのまま仕事に向かうから」
広い背中がくるっとこっちを向いた。
奈央って呼んだ。早速呼び捨てだ。
これから、呼び捨てされるんですね。私。
高陽さんが、つかつかっと歩いてきて、名刺の端にサラッと書いて渡してきた。
優しげな声なのに、言ってることは突き放すように事務的で私は戸惑った。
郵便番号と住所らしき文字が見える。
「これが住所、それから家の鍵」
高陽さんは、私の手のひらに鍵を乗せた。
「住所って?新居のこと?」
「ん、そうだよ。結婚したら、そこに住むつもりだったから。
ああ、忘れてた。奈央、君の連絡先教えて」高陽さんは携帯を取り出してる。
これを見ていた証人二人は、お互いに驚いたみたいに顔を向き合わせてぎょっとしてる。
二人とも、どういう女と結婚したんだって疑問が顔に書いてある。
『連絡先も知らない女と結婚したのか?』とでも思ってるんだろうな。
そう思われても、本当のことだから何も言えないけど。
私は、高陽さんに携帯にデータを送る。
「ありがとう。今夜また、連絡する」
連絡する?
ええっと、それって。
今日は、会うかどうかわからないって事ですか?
ええっ?本当にこのまま行っちゃうの?
友好的な微笑みを残して、彼はポンと私の頭を叩いた。
「行こう」
彼は向きを変えると、二人を従え、待たせていたタクシーで消えてしまった。
置いて行かれた。
「どういうこと?」
今日ぐらいはいて欲しいと思ってたのに。