私たち政略結婚しました!~クールな社長と甘い生活~
いい匂い。
思わず煮立って来た鍋に顔を近づける。
「出来には自信がないか、そんなのでいいのか?」高陽さんが真顔で答える。
「もちろんです。寄せ鍋ですから。失敗するのは難しいくらいですから」
「うむ」
商品のパッケージ通りに作らなきゃいけないって、思ってる方が珍しいと思います。
「なるほど」
高陽さんは、穴が開くほどパッケージの裏面を見つめてる。
彼の鍋の作り方を見ると、野菜に魚介類、鶏肉の分量まできちっと書いてある通りに作っている。
「なるほど。エビが無ければ魚でも、牡蠣でもいいのか」稀に見る几帳面な性格らしい。
「節約したいときは、お豆腐しか入れないときもあります」
「豆腐だけ?」この世の終わりかって顔で私を見る。
「美味しいですよ」
「そうか。こんど調べてみよう」
こういうところは、人に聞いた通りに料理を作ろうとする弟の智也と似ている。
私は、全く逆だ。
どうやら母に似てしまったみたい。
私も母も、冷蔵庫の残り物を構わずに入れる。
白菜にエノキダケに白滝、長ネギ。適当に魚介類や鶏肉を入れて後は煮るだけ。
鍋の美味しい作り方を、きちっと守って作る高陽さんのやり方とだいぶ違う。
「すごい、美味しい!」
その通りに作るとやっぱり美味しい。
高陽さんのために、少し大げさに言う。
「そうか。良かった。たくさん食べなさい」まんざらでもない顔で頷く彼。
高陽さんがどんどん食べなさいと勧めてくれる。
「はい」
あったかい。思わず笑みがこぼれる。