私はミィコ
休日
結局ただただくっついて、一度お風呂に入った後はまた、そのままベッドに移動して。
ベッドの中でもくっついて、そのまま眠りについた。

猫って幸せなんだなぁ、なんてぼんやりと考える。



「ん……」

目が覚めるとまだ外は薄暗かった。
この部屋のどこに時計があるのか、私はまだ分からない。
だから今が何時か分からない。

こっそりと彼の寝顔を盗み見る。
目を閉じていてもやっぱり顔はとても整っていると思う。
この瞼が開いて私を映すのが好きだ。
この手で、私を撫でてくれるのが好き。
こっそりと彼の手をとって繋ぐ。
身を寄せて再び眠りについた。




「んん……」
「おはよう、ミィコ」

目を開けると彼が私の寝顔を見ていた。
ぼうっと、ぼんやりとそれを見つめて、それからハッとする。

「にゃ!」

急に恥ずかしくなる。
いつから見ていたのだろう。
慌てて離れようとすると抱き寄せられた。
ちりん、と鈴が鳴る。

「ミィコ。逃げない」
「……にゃう」

よしよし、とあやすように背中を撫でられて仕方なく彼の腕の中におさまる。
彼は宥めるようにまた、額から眉毛、瞼、目尻、目元、頬、と唇を滑られていく。
同時に背中を撫でられて、朝だからかぞくぞくした。

「ん……」

鳴く余裕なんかなくて、鼻から甘ったるい吐息が抜ける。
と、彼はそんな鼻先へ唇を滑らせる。
それが口端へと触れた時、期待から心音が高鳴った。
彼にも聞こえているような気がする。
背中を撫でる手が腰を擽る。
バスローブ一枚だからかほとんど直接撫でられているような気になる。

「!」

気まぐれなのか、私が物欲しそうにしていたのか。
口の端に口付けた唇が私の唇へと触れた。
すり、っと摺り寄せられて軽く啄まれる。

「ん……」
「ミィコ」

抵抗する理由もなくて目を閉じる。
と、下唇を柔らかく食まれた。
唇の感触が気持ちいい。
腰から尻へと滑る手も心地良い。
あったかくて気持ち良くて身を委ねると、ぬるりとした舌が唇の表面へと触れた。

寝起きの頭だからだろうか。
もう、彼に心を預けてしまったからだろうか。
嫌じゃなくてそっと唇を開いてみる。
と、彼の舌先はその隙間へと侵入してきた。


「ん、……ん、」

前歯を擽られて、その擽ったさに鳥肌が立ちそうになる。
腰から脇腹へと撫で上がった手のひらが小さな胸のふくらみを撫でる。
……可愛がられているのか、愛撫なのかもわからない。


「んぅ……」

歯の擽ったさにそこも開くと舌が更に奥まで侵入してきた。
それを控えめにつつくと絡めとられる。
びく、と背中が揺れた。
それを捕まえられてシーツへと押し付けられる。


「んっ、ん……」

絡められた舌が水音を立てて静かな寝室へと響いた。
それに羞恥心が煽られる。
……けれど服越しに体を撫でる彼の手は、やはり猫を撫でる手そのものだった。
女性を抱こうとしている手つきではない。


「ふ……」
「ミィコ。好きだよ。愛してる」

舌が抜け出ていく。
それに名残り惜しいなんて感じて薄目を開くと繋がった銀糸がぷつりと切れた。
目が合った彼はそう紡ぐから、心から溶けてしまいそうになる。
血液が巡って体温が上がる。
下腹部がほんの少しだけ、疼いた。
でも、それを悟られるのはいけない気がしてくっつく。


「可愛い。俺のミィコ」

彼の声は甘ったるい。
だから逆らえなくなる。
抱きしめられて頭を撫でられる。
きっと嬉しい、ももっとも言ってはダメなんだろうなと思った。
だからぐりぐりと頭を押し付けて代わりに鳴いた。

「にゃあ……」
「はは、お腹が空いた? 何か食べるかい?」

こくりと頷く。
彼は身を起こして、私の部屋にあるのと同じパネルを手に取った。

「少し待っていなさい、すぐに戻るから」

ちゅっと頭に口付けて彼は部屋を抜け出す。
たったそれだけなのに寂しさが募る。


「にゃ……」

離れたくていてほしくて、手を伸ばしそうになる。
でも、何とか我慢した。

彼は、本当にすぐに戻ってきた。


「ミィコ」

またいつもみたいに名前を呼ばれてベッド端に座った彼に抱きしめられる。
彼の手にはペットボトルがあった。
中身は透明だからおそらく水。
彼はそれを口に含むと私の顎を掴んだ。
指先で上向かされて唇が重なる。
と、ほぼ同時に冷たい水が流れ込んでくる。

「ん……」

こくん、と喉を鳴らしてそれを飲んだ。
彼はそれで満足したらしい。

「いいこ」
そう頭を撫でられた。
体中が火照ってどうにかなりそう。

「ミィコは……お酒は飲めるのか」
「……にゃ」

問いかけにこくんと頷くと彼はそうか、と少し嬉しそうにした。

「じゃあ、今夜はとっておきの酒を飲もう。こうやって飲ませてあげるから」

こうやって、は口移しなのだと思った。
だからまた心音が上がる。
どうしてこう、いちいち振り回されるんだろう。


「ほら、ごはんだよ」

私がドキドキしているのに気付いていないのか、無邪気に笑って彼は一昨日の朝の様にクッキーを手のひらで砕いた。
それを唇へと差し出される。
ぱくっと口を開けてカケラを食べる。
ついでに、ぺろりと指を舐めてみた。
そう、猫がするように。


「! ミィコ」

彼はほんの少しだけ驚いたように瞳を揺らした。
でも、すぐにその指先で歯をなぞってくる。
擽ったい。
でも、やめて欲しくない。

「にゃう……」

ぺろぺろと必死に舐める。
彼はそれをやっぱり愛しそうに見つめて、反対の手で頭を撫でてくれた。


「食べ終わったらもう少し寝ようか」
「うにゃ」

そう言われてなんだか、ここにきてから寝てばっかりだなあなんて考えたけれど。
猫ってそんなものかもしれないとあっさり頷く。

少しずつ少しずつ、本当に猫に近付いているような気がした。


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