私はミィコ
会えない
コンコン、と遠くでノックの音が鳴っている。
ただそれをぼんやりと聞いていた。
コンコンコンとノックの音が大きくなる。
……まだ、眠い。
「……ま」
「――さま」
「ミィコさま!」
「!」
耳元で響いた声にびくんと体が跳ねる。
慌てて体を起こすと目の前に居たのはメアリだった。
「え、え……?」
「起きてください」
「え、あの人は……?」
「旦那様ならもうとっくに仕事へ行かれましたよ」
「そんな……」
頭がずきずきと痛む。
あんまり記憶がない。
私は――どうしたんだっけ。
「起きてお顔を洗って何か召し上がってください」
「ん……」
「食欲がないようでしたら消化のいいものを作らせますので」
「ん……」
「聞いていますか。もう昼ですよ」
「え!? 昼?」
そんなに寝ていたのかと焦る。
と、メアリは思い切り眉を寄せた。
「そうですよ。なので起きてくださいね。食堂で待っています」
「……わかりました」
メアリが出ていくのを見届けてのそのそと起き上がる。
そんなに眠っていたのかと内心呆れる。
いくら何でも寝すぎだろう。
寝すぎたせいで眠い。
それから顔を洗い昼食に近い朝食を食べて部屋へと戻った。
朝食は気を利かせてくれたのかおかゆだった。
昨日のことを思い出してみる。
触れて欲しかったな、って。
もしも私が眠らなかったら触ってもらえたんだろうか。
そっと自分の身体を見下ろす。と、ノックの音が響いた。
「はい、どうぞ?」
「メアリです。失礼いたします」
すぐに扉が開いてもう見慣れたメアリが部屋へと入って来る。
「旦那様よりトラブルがあり、本日は帰宅出来ないとのことです。また、明日も帰れるかどうか不明とのことなので、今日はミィコ様をお休みされて構いません。ああただし、なるべく敷地内にはいてくださいね」
「え! 帰ってこれないの!?」
「? 安心してしてください。きっちりお給料はお渡しいたしますので」
「え、そうじゃなくて……」
“会えないの”そう言いかけて言葉を呑みこむ。
休みなのにお金がもらえるなら最高じゃないか。
そう思うのにどうして……ずきずき胸が痛いんだろう。
「何かあったらいつでもパネルでどうぞ。お暇なようでしたらDVDなどもお持ち出来ますので。それでは」
「わかった、ありがとう」
やっぱり淡々と告げるメアリを引き止める気にもなれずに見送った。
休みかあ……どうしよう。
ひとまず、と着ていたバスローブを脱ぐ。
クローゼットの中にあったTシャツにゴムの緩いスカートをはいてみる。
さすがにまた寝るわけにはいかないので庭に出てみようかと思い、玄関へと向かった。
すれ違ったメイドさんにどちらへ? と問われて、庭へ行く旨を伝えると歩きやすいサンダルを貸してもらえた。
今日は天気がいいからお日様が気持ちいい。
「あ、リュージ」
「お? ミィコさまじゃねーすか。お疲れさまです」
偶然見知った姿を見つけて少しだけ嬉しくなる。
「何してるの?」
「え、庭の手入れっすよ」
「そうなんだ? 手伝えることある?」
「え!? いやいや、ミィコさまにはさせれないんで」
「……いいじゃない、ひまなの」
そんな会話を繰り返して何とか仕事を与えてもらった。
やることがあるのは有難い。
リュージの指示で雑草抜きと小石の除去。
普段なら面倒に感じるはずが寝てばかりだった私にはいい刺激になった。
途中飲み物と軽いおやつを差し入れしてもらって、陽が落ちるまで夢中で行った。
「いやー今日は助かりました」
「こちらこそ。明日も手伝っていい?」
「え」
「ご主人様がいなくて猫は暇なんです」
「いいすけど……旦那様に怒られても知りませんからね」
「ふふ、ありがとう。それじゃあまた明日」
明日も一人でいなくて済む。
そう思うと嬉しかった。
戻って一人で夕飯を食べてお風呂に入る。
それから、自分の部屋のベッドに横になった。
このベッドを使うのは初めてだ。
「……さみしい、なぁ」
猫は寂しがり屋なんだろうか。
分からない。
でも、あのぬくもりがないのが本当に心細く感じた。
早く帰ってきて欲しい。
そう思いながら私はまた一日を終えたのだった。
ただそれをぼんやりと聞いていた。
コンコンコンとノックの音が大きくなる。
……まだ、眠い。
「……ま」
「――さま」
「ミィコさま!」
「!」
耳元で響いた声にびくんと体が跳ねる。
慌てて体を起こすと目の前に居たのはメアリだった。
「え、え……?」
「起きてください」
「え、あの人は……?」
「旦那様ならもうとっくに仕事へ行かれましたよ」
「そんな……」
頭がずきずきと痛む。
あんまり記憶がない。
私は――どうしたんだっけ。
「起きてお顔を洗って何か召し上がってください」
「ん……」
「食欲がないようでしたら消化のいいものを作らせますので」
「ん……」
「聞いていますか。もう昼ですよ」
「え!? 昼?」
そんなに寝ていたのかと焦る。
と、メアリは思い切り眉を寄せた。
「そうですよ。なので起きてくださいね。食堂で待っています」
「……わかりました」
メアリが出ていくのを見届けてのそのそと起き上がる。
そんなに眠っていたのかと内心呆れる。
いくら何でも寝すぎだろう。
寝すぎたせいで眠い。
それから顔を洗い昼食に近い朝食を食べて部屋へと戻った。
朝食は気を利かせてくれたのかおかゆだった。
昨日のことを思い出してみる。
触れて欲しかったな、って。
もしも私が眠らなかったら触ってもらえたんだろうか。
そっと自分の身体を見下ろす。と、ノックの音が響いた。
「はい、どうぞ?」
「メアリです。失礼いたします」
すぐに扉が開いてもう見慣れたメアリが部屋へと入って来る。
「旦那様よりトラブルがあり、本日は帰宅出来ないとのことです。また、明日も帰れるかどうか不明とのことなので、今日はミィコ様をお休みされて構いません。ああただし、なるべく敷地内にはいてくださいね」
「え! 帰ってこれないの!?」
「? 安心してしてください。きっちりお給料はお渡しいたしますので」
「え、そうじゃなくて……」
“会えないの”そう言いかけて言葉を呑みこむ。
休みなのにお金がもらえるなら最高じゃないか。
そう思うのにどうして……ずきずき胸が痛いんだろう。
「何かあったらいつでもパネルでどうぞ。お暇なようでしたらDVDなどもお持ち出来ますので。それでは」
「わかった、ありがとう」
やっぱり淡々と告げるメアリを引き止める気にもなれずに見送った。
休みかあ……どうしよう。
ひとまず、と着ていたバスローブを脱ぐ。
クローゼットの中にあったTシャツにゴムの緩いスカートをはいてみる。
さすがにまた寝るわけにはいかないので庭に出てみようかと思い、玄関へと向かった。
すれ違ったメイドさんにどちらへ? と問われて、庭へ行く旨を伝えると歩きやすいサンダルを貸してもらえた。
今日は天気がいいからお日様が気持ちいい。
「あ、リュージ」
「お? ミィコさまじゃねーすか。お疲れさまです」
偶然見知った姿を見つけて少しだけ嬉しくなる。
「何してるの?」
「え、庭の手入れっすよ」
「そうなんだ? 手伝えることある?」
「え!? いやいや、ミィコさまにはさせれないんで」
「……いいじゃない、ひまなの」
そんな会話を繰り返して何とか仕事を与えてもらった。
やることがあるのは有難い。
リュージの指示で雑草抜きと小石の除去。
普段なら面倒に感じるはずが寝てばかりだった私にはいい刺激になった。
途中飲み物と軽いおやつを差し入れしてもらって、陽が落ちるまで夢中で行った。
「いやー今日は助かりました」
「こちらこそ。明日も手伝っていい?」
「え」
「ご主人様がいなくて猫は暇なんです」
「いいすけど……旦那様に怒られても知りませんからね」
「ふふ、ありがとう。それじゃあまた明日」
明日も一人でいなくて済む。
そう思うと嬉しかった。
戻って一人で夕飯を食べてお風呂に入る。
それから、自分の部屋のベッドに横になった。
このベッドを使うのは初めてだ。
「……さみしい、なぁ」
猫は寂しがり屋なんだろうか。
分からない。
でも、あのぬくもりがないのが本当に心細く感じた。
早く帰ってきて欲しい。
そう思いながら私はまた一日を終えたのだった。