私はミィコ
コンコン、とノックの音が響いた。
「はい」
「ミィコ様。入ってもよろしいですか」
響いた声は知らない声だった。
メアリの代わり、はてっきり別のメイドさんを予想していたのに男の人の声だ。
でも、朝食時に会った石山さんや高柳さんとも違う若い声。
「……はい、今あけます」
少しだけ緊張しつつ扉に手をあける。
開くとそこにいたのは本当に若い男性だった。
どうもーなんてへらへら笑う彼は、正直この洋館には似つかわしくない。
金にも近いような明るい茶髪と、耳にぶらさがったいくつものピアス。
何というか、チャラい。
ホストか何かだと思える雰囲気。
顔はやっぱり整っている。
「えっと……?」
「あ、オレりゅーじっす。今日はミィコ様の運転手なんで。もう出られます?」
「あ……はい、少しだけ、待ってください」
念のため、と財布とスマホだけを持って戻る。
じゃあ行きますか、という彼に促されて外へと歩き出した。
そこでやっと、まだスリッパだったことに気が付く。
「あ……靴、」
「あー、玄関にあるんで大丈夫っすよ」
へらり。やっぱり軽い笑顔を浮かべてチャラい雰囲気の彼は笑った。
「りゅーじ、さん? 名字は……?」
「ん? リュージでいいですって。みんなそう呼ぶんで」
「わかりました。じゃあ、リュージ」
「うぃっす」
軽いな! そう言いたくなるのを堪えて玄関まで向かう。
メイドさんが2人ほどいて見送ってくれた。
一人は見たことがある。
……そう、面接をしてくれた女性だ。
でも、ゆっくり言葉を交わす雰囲気じゃなくて、会釈だけを互いに交わす。
「そのワンピならこのパンプスでどーすか。ピンク。可愛いっしょ」
「……かわいすぎない?」
「大丈夫大丈夫、ミィコ様超可愛いし」
「……そうかな、ありがとう」
チャラいとは言えイケメンだ。
あまり可愛いなんて言われ慣れてない私は正直舞い上がりそうになっていた。
31歳にもなって、と笑われてしまいそうだが、年下の男の子なんて接点がないから尚更。
悪い気はしない。
素直に出されたパンプスへとつま先をさしこんで履く。
思ったよりヒールが高くてよろけそうになる。
「おっとアブな」
「……ありがとう」
すかさず支えられてほんの少しだけドキドキした。
彼、にもときめいているくせに自分はもしかしてビッチだったのか、なんて浮かぶ。
「いいっすよ。じゃあ行きましょうか。門の外に車あるんで」
「はい」
支えた手を滑らせて、リュージはその手をとって歩き始める。
それがあまりにも自然で、振り払うタイミングもなかった。
ドキドキ、心音だけが高鳴る。
「あれ、車なんで」
「……うん」
何だかすごく恥ずかしい。
でも、案内されるまま車まで行く。
彼は手を離すとその手で助手席の扉を開けた。
どうぞ、なんて促されてそのまま乗り込む。
まるでお姫様扱いだな、ってぼんやり考える。
それとも、世の中の可愛い女の子は、こんな風にしてもらうのが当たり前なんだろうか。
「シートベルトしましたぁ? 出発しますよー」
「あ、うん、大丈夫」
スマホをポケットに、サイフはダッシュボードの上へと置いてシートベルトをしっかりしめる。
てっきりリムジンか何かを想像していたけれど、車はどこにでもあるような黒の軽自動車だった。
だから変な気を張らずに力を抜く。
動き出した外の景色を眺めて、それから運転席のリュージをちらっと見遣る。
……横顔も凄く整っている。
かっこいいなって素直に思ってしまって、自分自身に嫌気がさした。
「ミィコさまは、何でミィコ様になろうと思ったんすか」
いくつめの信号だろうか。
赤信号で停車するとすぐ、リュージはそう質問した。
何だかそれにドキリとしてしまった。
何で、の理由を頭の中で考える。見栄をはるのも馬鹿らしいなと思った。
「お金が欲しかったから……」
そう答えて、改めて自分は浅はかな人間だと思う。
幻滅されるんじゃないかってほんの少しだけ怖かった。
「へぇ、正直っすね」
「嘘を言っても仕方ないでしょ?」
「そうかな。結構こうやってきくと皆さんそれらしい、もっともーみたいな理由並べますけどね」
「……そうなんだ」
「金に困ってるんすか」
「そこまで、じゃないかな……借金があるとかじゃなくて。余裕はなかったけど」
「へぇ。この仕事、めちゃくちゃ金いいすからね。オレが女だったらやったのに」
何の仕事をしているとか、そういうことをきかれるかと思って内心身構えていた私は、続いた言葉にほっとした。リュージはそれに気付いているのかいないのかへらりと笑ってみせる。
「やりたいの?」
「そりゃあね。オレ、旦那様のこと大好きっすから。あ、変な意味じゃなくー」
「あはは、それは分かるよ」
「良かった。こう見えてオレ、女の子大好きなんで!」
「こう見えてってすごく見た目にも出てるよ?」
リュージはキランと擬音が聞こえてきそうなキメ顔を作るからついつい笑ってしまう。
それにつられたように笑顔を向けてくれて、何だか自然と楽しく話すことが出来た。
こういう人が、コミュ力高いとか言うんだろうなぁ、なんてぼんやり考えつつ。
時折過ぎていく景色を横目で眺める。
あっという間に時間はすぎて、随分遠くまで来たようだった。
少し街らしくなってきたところで車はパーキングへと止まる。
「とりあえずここで。もう昼っすけど腹減ってますー?」
「んー朝食たくさんとったからあんまり?」
「オッケー。ならカフェとか軽くで」
そんな話をしながらシートベルトを外すと、先に降りたリュージが扉を開ける。
「どーぞ、お姫さま?」
「ちょっとやめて」
くすくすと笑いながら車から降りる。
ボタンロックで鍵をかけてパーキングをあとにすると、こじんまりした街が広がっていた。
小さな商店街はレンガ調のおしゃれな街並み。
あちこちにカフェや飲食店が並びどこからもいい匂いがする。
「ここで」
そう示したリュージのあとに続いて喫茶店らしい店へと入った。
顔なじみなのか注文する様を眺める。
そこでは特に深い話もないまま軽く昼食をとって、そのあと案内されるまま美容室へ。
「うぃーっす。いつものお願いしまーす」
出てきた店員にリュージはそう告げる。
優しげな、パーマの男性だ。
「了解。それじゃあ2……いや、3時間かな。よろしく」
店員はそうリュージに告げて、リュージは片手をあげて出ていく。
店員に案内されて椅子へと腰をおろした。
「新しい、ミィコ様、ですよね。お任せで大丈夫ですか」
「え、……はい」
「それじゃあウィッグは外してもらって……あー地毛はこんな感じか。黒染めしちゃって平気ですか?」
「……はい、大丈夫です」
元々の髪型にそこまで執着がない。
だから、あまり抵抗がなかった。
少しでも綺麗になれるなら、という気持ちもあったし。
それで旦那様――こと彼に気に入ってもらえるなら、というのもある。
美容室で根ほり葉ほり質問責めなのは苦手なんだけれど、訳アリだと思っているのかただ黙って雑誌を渡されカラーを始めてくれた。
時折染みないか、を訊かれるがそれくらいなので助かる。
鏡の中に映るのは、紫の瞳をした私。
普段とは全然違うメイクの私。
今、知り合いに会ったら何人が気付くのかな。
女性は化粧で変わるとは言うが、本当に整形みたい。
そんなことを考えて鏡をちらちら。
それから、雑誌を適当に読んで時間を潰す。
途中で飲み物は何にするか訊かれて珈琲と答える。
出てきた珈琲と一口サイズのお菓子を口にしてカラーカット、縮毛矯正トリートメントと全てが終わった頃、タイミング良くリュージが戻ってきた。
「うぃっす。どーすか。お! いい感じじゃん?」
ブローされる私の後ろに回りこんでリュージはそう笑った。
ウィッグよりも長さは足りないけれど、それに近い色になった私はほんの少しだけ、ミィコに近付いた気がする。
「それじゃあ帰りますか。あ、会計はこっち持ちなんで」
「ありがとう」
髪も整えてもらい、ウィッグを紙袋に入れてもらって、それを片手にお会計。
カードで支払たリュージにお礼を言って一緒にパーキングまで歩く。
「ミィコ様、超似合ってるし。旦那様も喜ぶっすよ、それ」
また、助手席の扉を開けてもらって中へと乗り込むとリュージがそう笑った。
あの人に気に入ってもらえるかもしれない。
そう思うと何だか胸が高鳴る。
早く会いたいなんて思ってしまって、自分の軽さに秘かに苦笑した。
洋館へと帰宅して、リュージと別れて。
やってきたメアリに化粧を直されて衣装に着替えた。
朝はうっかりしていたから、今度はきちんと首輪も付ける。
鏡の中にいるのは、ウィッグはないのに知らない私。
割と似合ってる、なんて自分で思うほどには似合っている。
そうして浸っているとすぐ、部屋のパネルが光った。
どうやらこれが連絡手段らしい。旦那様帰宅、とあった。
私はどうしていいか分からずにただ部屋の外に出てみる。と、すぐにメアリと合流出来た。
「旦那様のお部屋にいれば大丈夫です。くれぐれも言葉は発しないよう。可能な限り人間としてのふるまいはやめてください」
やはり淡々とそう注意をされて頷く。
私は昨日よりもずっと覚悟が出来ている。
だから、特に躊躇うでもなく旦那様の部屋へと行き念のためノックをした。
いないのは分かっている。
返事も当然ない。
主の部屋に先に入っていいのか、という疑問もあったが私は猫なんだからきっといいんだろう。
細かいことは気にしたら負けだ。
部屋へと入って明かりをつける。
あの高級そうなソファーに座るか迷う。
私が猫ならどうするんだろう。
ミィコ、なら。
ソファーでごろごろと待つ?
それとも……
「はい」
「ミィコ様。入ってもよろしいですか」
響いた声は知らない声だった。
メアリの代わり、はてっきり別のメイドさんを予想していたのに男の人の声だ。
でも、朝食時に会った石山さんや高柳さんとも違う若い声。
「……はい、今あけます」
少しだけ緊張しつつ扉に手をあける。
開くとそこにいたのは本当に若い男性だった。
どうもーなんてへらへら笑う彼は、正直この洋館には似つかわしくない。
金にも近いような明るい茶髪と、耳にぶらさがったいくつものピアス。
何というか、チャラい。
ホストか何かだと思える雰囲気。
顔はやっぱり整っている。
「えっと……?」
「あ、オレりゅーじっす。今日はミィコ様の運転手なんで。もう出られます?」
「あ……はい、少しだけ、待ってください」
念のため、と財布とスマホだけを持って戻る。
じゃあ行きますか、という彼に促されて外へと歩き出した。
そこでやっと、まだスリッパだったことに気が付く。
「あ……靴、」
「あー、玄関にあるんで大丈夫っすよ」
へらり。やっぱり軽い笑顔を浮かべてチャラい雰囲気の彼は笑った。
「りゅーじ、さん? 名字は……?」
「ん? リュージでいいですって。みんなそう呼ぶんで」
「わかりました。じゃあ、リュージ」
「うぃっす」
軽いな! そう言いたくなるのを堪えて玄関まで向かう。
メイドさんが2人ほどいて見送ってくれた。
一人は見たことがある。
……そう、面接をしてくれた女性だ。
でも、ゆっくり言葉を交わす雰囲気じゃなくて、会釈だけを互いに交わす。
「そのワンピならこのパンプスでどーすか。ピンク。可愛いっしょ」
「……かわいすぎない?」
「大丈夫大丈夫、ミィコ様超可愛いし」
「……そうかな、ありがとう」
チャラいとは言えイケメンだ。
あまり可愛いなんて言われ慣れてない私は正直舞い上がりそうになっていた。
31歳にもなって、と笑われてしまいそうだが、年下の男の子なんて接点がないから尚更。
悪い気はしない。
素直に出されたパンプスへとつま先をさしこんで履く。
思ったよりヒールが高くてよろけそうになる。
「おっとアブな」
「……ありがとう」
すかさず支えられてほんの少しだけドキドキした。
彼、にもときめいているくせに自分はもしかしてビッチだったのか、なんて浮かぶ。
「いいっすよ。じゃあ行きましょうか。門の外に車あるんで」
「はい」
支えた手を滑らせて、リュージはその手をとって歩き始める。
それがあまりにも自然で、振り払うタイミングもなかった。
ドキドキ、心音だけが高鳴る。
「あれ、車なんで」
「……うん」
何だかすごく恥ずかしい。
でも、案内されるまま車まで行く。
彼は手を離すとその手で助手席の扉を開けた。
どうぞ、なんて促されてそのまま乗り込む。
まるでお姫様扱いだな、ってぼんやり考える。
それとも、世の中の可愛い女の子は、こんな風にしてもらうのが当たり前なんだろうか。
「シートベルトしましたぁ? 出発しますよー」
「あ、うん、大丈夫」
スマホをポケットに、サイフはダッシュボードの上へと置いてシートベルトをしっかりしめる。
てっきりリムジンか何かを想像していたけれど、車はどこにでもあるような黒の軽自動車だった。
だから変な気を張らずに力を抜く。
動き出した外の景色を眺めて、それから運転席のリュージをちらっと見遣る。
……横顔も凄く整っている。
かっこいいなって素直に思ってしまって、自分自身に嫌気がさした。
「ミィコさまは、何でミィコ様になろうと思ったんすか」
いくつめの信号だろうか。
赤信号で停車するとすぐ、リュージはそう質問した。
何だかそれにドキリとしてしまった。
何で、の理由を頭の中で考える。見栄をはるのも馬鹿らしいなと思った。
「お金が欲しかったから……」
そう答えて、改めて自分は浅はかな人間だと思う。
幻滅されるんじゃないかってほんの少しだけ怖かった。
「へぇ、正直っすね」
「嘘を言っても仕方ないでしょ?」
「そうかな。結構こうやってきくと皆さんそれらしい、もっともーみたいな理由並べますけどね」
「……そうなんだ」
「金に困ってるんすか」
「そこまで、じゃないかな……借金があるとかじゃなくて。余裕はなかったけど」
「へぇ。この仕事、めちゃくちゃ金いいすからね。オレが女だったらやったのに」
何の仕事をしているとか、そういうことをきかれるかと思って内心身構えていた私は、続いた言葉にほっとした。リュージはそれに気付いているのかいないのかへらりと笑ってみせる。
「やりたいの?」
「そりゃあね。オレ、旦那様のこと大好きっすから。あ、変な意味じゃなくー」
「あはは、それは分かるよ」
「良かった。こう見えてオレ、女の子大好きなんで!」
「こう見えてってすごく見た目にも出てるよ?」
リュージはキランと擬音が聞こえてきそうなキメ顔を作るからついつい笑ってしまう。
それにつられたように笑顔を向けてくれて、何だか自然と楽しく話すことが出来た。
こういう人が、コミュ力高いとか言うんだろうなぁ、なんてぼんやり考えつつ。
時折過ぎていく景色を横目で眺める。
あっという間に時間はすぎて、随分遠くまで来たようだった。
少し街らしくなってきたところで車はパーキングへと止まる。
「とりあえずここで。もう昼っすけど腹減ってますー?」
「んー朝食たくさんとったからあんまり?」
「オッケー。ならカフェとか軽くで」
そんな話をしながらシートベルトを外すと、先に降りたリュージが扉を開ける。
「どーぞ、お姫さま?」
「ちょっとやめて」
くすくすと笑いながら車から降りる。
ボタンロックで鍵をかけてパーキングをあとにすると、こじんまりした街が広がっていた。
小さな商店街はレンガ調のおしゃれな街並み。
あちこちにカフェや飲食店が並びどこからもいい匂いがする。
「ここで」
そう示したリュージのあとに続いて喫茶店らしい店へと入った。
顔なじみなのか注文する様を眺める。
そこでは特に深い話もないまま軽く昼食をとって、そのあと案内されるまま美容室へ。
「うぃーっす。いつものお願いしまーす」
出てきた店員にリュージはそう告げる。
優しげな、パーマの男性だ。
「了解。それじゃあ2……いや、3時間かな。よろしく」
店員はそうリュージに告げて、リュージは片手をあげて出ていく。
店員に案内されて椅子へと腰をおろした。
「新しい、ミィコ様、ですよね。お任せで大丈夫ですか」
「え、……はい」
「それじゃあウィッグは外してもらって……あー地毛はこんな感じか。黒染めしちゃって平気ですか?」
「……はい、大丈夫です」
元々の髪型にそこまで執着がない。
だから、あまり抵抗がなかった。
少しでも綺麗になれるなら、という気持ちもあったし。
それで旦那様――こと彼に気に入ってもらえるなら、というのもある。
美容室で根ほり葉ほり質問責めなのは苦手なんだけれど、訳アリだと思っているのかただ黙って雑誌を渡されカラーを始めてくれた。
時折染みないか、を訊かれるがそれくらいなので助かる。
鏡の中に映るのは、紫の瞳をした私。
普段とは全然違うメイクの私。
今、知り合いに会ったら何人が気付くのかな。
女性は化粧で変わるとは言うが、本当に整形みたい。
そんなことを考えて鏡をちらちら。
それから、雑誌を適当に読んで時間を潰す。
途中で飲み物は何にするか訊かれて珈琲と答える。
出てきた珈琲と一口サイズのお菓子を口にしてカラーカット、縮毛矯正トリートメントと全てが終わった頃、タイミング良くリュージが戻ってきた。
「うぃっす。どーすか。お! いい感じじゃん?」
ブローされる私の後ろに回りこんでリュージはそう笑った。
ウィッグよりも長さは足りないけれど、それに近い色になった私はほんの少しだけ、ミィコに近付いた気がする。
「それじゃあ帰りますか。あ、会計はこっち持ちなんで」
「ありがとう」
髪も整えてもらい、ウィッグを紙袋に入れてもらって、それを片手にお会計。
カードで支払たリュージにお礼を言って一緒にパーキングまで歩く。
「ミィコ様、超似合ってるし。旦那様も喜ぶっすよ、それ」
また、助手席の扉を開けてもらって中へと乗り込むとリュージがそう笑った。
あの人に気に入ってもらえるかもしれない。
そう思うと何だか胸が高鳴る。
早く会いたいなんて思ってしまって、自分の軽さに秘かに苦笑した。
洋館へと帰宅して、リュージと別れて。
やってきたメアリに化粧を直されて衣装に着替えた。
朝はうっかりしていたから、今度はきちんと首輪も付ける。
鏡の中にいるのは、ウィッグはないのに知らない私。
割と似合ってる、なんて自分で思うほどには似合っている。
そうして浸っているとすぐ、部屋のパネルが光った。
どうやらこれが連絡手段らしい。旦那様帰宅、とあった。
私はどうしていいか分からずにただ部屋の外に出てみる。と、すぐにメアリと合流出来た。
「旦那様のお部屋にいれば大丈夫です。くれぐれも言葉は発しないよう。可能な限り人間としてのふるまいはやめてください」
やはり淡々とそう注意をされて頷く。
私は昨日よりもずっと覚悟が出来ている。
だから、特に躊躇うでもなく旦那様の部屋へと行き念のためノックをした。
いないのは分かっている。
返事も当然ない。
主の部屋に先に入っていいのか、という疑問もあったが私は猫なんだからきっといいんだろう。
細かいことは気にしたら負けだ。
部屋へと入って明かりをつける。
あの高級そうなソファーに座るか迷う。
私が猫ならどうするんだろう。
ミィコ、なら。
ソファーでごろごろと待つ?
それとも……