それはバーの片隅で
「んー……趣味?みたいな」
「はあ?」
修司はグラスで唇を濡らし、ぺろりと舐めた。
その動きがやけに色っぽくて一瞬だけドキッとする。ドキッとはしたけど、これは酔いのせいで思考回路がいつもと違うだけだ。きっとそうだ。
目を細めて笑った修司は続ける。
「初対面だからこそ話せることってあるでしょ?」
「……そうかな」
「まあ気にしないでよ」
「気にしますよ。…ていうか、女の子泣かせてよく平気ですよね」
話を戻し、店を出て行った女の子を思い出した。
「あれはちょっとちがって……んー、泣かせたには泣かせたんだけどね」
「すぐ他の女に声かける男の子は信用しません」
途端、修司は拗ねたように唇を尖らせる。
「男の子って……なにその子供あつかい」
「だって絶対私より年下だから。……あ、マスター、ありがとうございます」
「どうぞ」
マスターから手渡された新しいグラスを受けとり、ひと口飲む。
「わ。おいしい!」
「ありがとうございます」
「これ、何ていうんですか?」
「スプモー二といいます」
「あっ、聞いたことありま……あれ?」
目を合わせて話しているはずのマスターの顔が、二重に重なっていく。ぐねぐねと渦を巻いていくように視界が揺れて――――
「お客さま!」
「御崎さん!」
私を呼ぶふたりの声が聞こえたと同時に、意識を手放した。