それはバーの片隅で

*****

 音が聴こえる。
 鳥のさえずりと、車が行き交う音。
 私の部屋からはこんなに車の音は聴こえないはずだ。眠る時に音がうるさいのは好きじゃなくて、マンションを選ぶときすごく悩んだ。
 あまりに車が通らないのも防犯的にどうでしょうとか何とか。
 そんなことをぼんやり思い出しながらうっすら目を開ける。

「……?まぶしい……」

 明るさに思わず目をすがめた。
 右を見る。…ブラインド。
 左を見る。………背中だ。

(……は?……背中?)

 一気に頭が冴えて起き上がった。知らない部屋。知らないベッド。
 そして知らない背中―――

「だれ!?ていうかここどこ!?」
「……んんー……?何、うるさい…」

 目の前の背中が唸りながらゆったりと動き、ギシッとベッドを軋ませこちらへ向いた。

「……ああ。おはよ」

 欠伸を噛み殺しながら挨拶してきたのは、昨晩バーで一緒になった男。

(確か修司とかって)

「あーねっむ。……まだ7時前?ありえねー……土曜に起きる時間じゃないし……」

 修司は髪を掻きながら時計と私とを見比べ、起き上がりかけた身体を再びベッドに沈めようとしている。



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