それはバーの片隅で
「んっま!目玉焼きにカリカリベーコンは鉄板だなー」
「冷蔵庫にあった材料がよかっただけです」
「つかあれっ、御崎さんは食わねーの?」
「私はおなかすいてないから……」
(……え?)
「今なんて言った?」
「ん?だから食わねーのって」
「ちがう」
そういえば、昨晩も気になったことがあった。
修司に初対面だと言った時、ほんの少し妙な顔をしたこと。最悪な接待だったことを言った記憶もないのに、知っていたようなことを言ったこと。
「……あのさ。ゆうべから思ってたけど」
「うん?」
「あなたが私の名前を知ってるのはなんで」
フォークを口に運んでいた修司の動きが止まり、きょとんとした目を向けてくる。
「……昨日から薄々気づいてたけど…もしかしてまだ気付いてない?」
「え?」
修司は立ちあがり私に背を向けて前かがみになった。そして思いっきり髪をボサボサにしている。
怪訝に思いつつ待っていると、よしと小さな声がして振り返られた。
「……あれ?なんか見たことある」
「じゃーこれでわかるかな」
言いながら修司は俯き、胸にかけていた黒ぶち眼鏡を手にする。
そしてゆっくりと頭をあげた。
「…………えっ」
(まさか、まさか)
「……しのはら、くん?」
「ハイあたりー。マジで気づいてなかったんすね」
まだ入社2年目の、同部署に所属する部下。
篠原修司だった。