それはバーの片隅で

「お待たせいたしました。ダイキリです」
「ありがとうございます。……ねえ、マスター」
「はい?」
「何回か来させてもらってますけど」
「気に入っていただけてとても光栄です」
「雰囲気が好きだし、お酒もおいしいですから。…ってそうじゃなくて」

 声をひそめて視線だけで店の奥を示すと、マスターは微笑んで頷く。

「気になりますか?」
「……そりゃ、まあ」

 語尾が濁る。気にならないと言ったら嘘になる。
 ―――私が週に1度ここへ通うようになって、3週間はすぎた。
 そして決まって、毎回のように店の奥でひっそりと女の子が泣いている。
 向かいに座っているのはいつだって篠原くんだ。

(全員ちがう女の人なんだけど)
(……どうなってるの?)

 頭の中に飛び交うクエスチョンマークを見透かしたように、マスターはそっと声を落とす。

「……あいつの女性関係が派手ってわけじゃ、ないんですよ」
「え?じゃあ……」
「まれですが、相手が男性の時もありますし」
「えっ?それどういう」
「あとは直接修司にきいてみてください」

 笑いじわがよく似合うマスターのウインクに、私は苦笑いで答えた。



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