それはバーの片隅で
「お疲れさん」
「お疲れさまでした。うまくいきそうですね」
「ああ。御崎のおかげでな。先方はお前を気に入ってるようだし」
「……仕事についてはお褒めいただきました」
お酒のにおいをぷんぷんさせながら笑う上司に、御崎はるかは内心舌打ちをする。
(っていうかセクハラじゃないの?それ)
私の眉間に皺が寄ったことにこれっぽっちも気付かない上司は、タクシーを待ってる間ずっとご機嫌だ。
それはいいんだけど、発言が全部ムカついて仕方ない。
「ウチの上玉だしなぁ。仕事ぶり含め、というところか。ハッハッハ」
「……あの」
「おータクシーきたかあー。うし解散。お疲れ」
「はい。では失礼します」
ようやく来てくれた救世主―――じゃないタクシーに乗り込んだ上司を笑顔で見送り、私は歩き出した。
今夜はまっすぐ帰る気になれない。
(どっかで飲みなおそう)
トートのひもを握りしめ、私はきびすを返した。