それはバーの片隅で

(……つめたい)

 つめたくて、大きな男の人の手だ。

(ってそうじゃなくて!)

「さ、さわる必要ないでしょ」

 あわてて手をひっこめる。
 私はドキドキしたのに、篠原くんの余裕そうな笑顔は変わらない。

「あのね、御崎さんもそうだけどね。俺思うんだ」
「……なに?」
「がんばってる人ほど、簡単に弱音はけなくなるって」

 ツキンと胸に痛みが走った。
 篠原くんは続ける。

「つか、マヒみたくなってて、はきだそうとも思えなくなってるのかも」

(……私も、そうなってるのかもしれない)

 刺すような痛みが広がり、胸が苦しくなってきた。
 さっきのドキドキとは全然ちがう。

「ほら。その顔」

 あったかい感覚が頬に触れた。
 篠原くんの右手が、私の両頬を包んでいる。

「……なに、その顔って」
「会社でずっと気になってたんです」

 話し方が会社モードになって、またドキッとした。



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