それはバーの片隅で

(だめ。思い出すな……!)

 思いきり首を振ってから息を整える。
 電話だから、篠原くんに私の行動がバレることはない。

「……篠原くんがそれなりに思うところがあって、つまりはあのバーの人生相談所みたいになってるって話でしょ」
『ええー?そこ持ちだします?』

 篠原くんは不満そうな声を出す。
 今はあのことに触れたくないのもあったけど、今話したことだって本当に聞きたいことだ。嘘はついてない。

「……なんであのバーでそんなことしてるの?」

 うーん、と小さく唸る声がしてから、小さくため息をついて篠原くんは答える。

『ここ半年くらいですよ。そしたらなんか、口コミかわからないけど評判になっちゃって』
「……」
『はじめたきっかけ、気になりますか』
「……べつに」
『意地悪だなぁ。ま、いいですけどね。この先はちゃんと会って話したいですし』
『修司』

 電話の向こうでカランと音がして、マスターの声が聞こえた。

『あっ、ごめん今行く!御崎さん、またね。……おやすみ』

 電子音に切り替わった電話を切り、あらためてベッドにつっぶした。

「おやすみ、って……反則すぎじゃないの、ねえ」

 息が混じって、いつもより少し低い篠原くんの声が離れない。


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