それはバーの片隅で
「いらっしゃいませ」
「こんばんは、マスター」
あの電話から4日後。
来るか悩んだけど、結局きてしまった。
(…いろいろ逃げちゃダメだし)
いつものカウンター席に座ると、マスターはいつものように優しく微笑む。
「1杯目はお決まりですか?」
「んー……ジンフィズで」
「かしこまりました」
店内へ視線を走らせると―――いた。
(……今夜もか)
予想通り、こちらに背をむけた篠原くん。
向かいに座っているのは……あまりじろじろ見るわけにもいかないからはっきりとはわからないけれど、まだ若そうな女の子だった。
(悩みを吐きださせてあげたいっていうのは、いいことなんだろうけど)
(…なんだろ、この感じ)
自分でも原因のわからない胸のもやつきから気を紛らわせるため、頬杖をついてスマホを取り出す。
ニュースや天気予報をチェックしていると、穏やかな声をかけられた。
「気になりますか?」
「……えっ」
顔を上げる。
「修司のことですよ」
なめらかな手の動きは止めることなく、マスターは声をおとしてほほえんだ。