それはバーの片隅で

(ほんとに……これじゃまるで)

 カランという氷の音で我に返った。
 シェイカーからグラスにと、液体が注がれていく。

「勘違いする子はいないと思いますよ」

 言いながらマスターはバースプーンでグラス内の氷を1度浮かせた。
 グラスの中の色が変わる。
 その光景に見とれて、ほうっとため息が出た。

「……きれいですね」
「そして美味しいですよ」

 つつ、と目の前に差し出される。

「どうぞ。ジンフィズです」
「いただきます。……ほんとだ。すっごくおいしいです」
「光栄です。……あの、はるかさん」
「はい?」
「ひとつだけ、年寄りからひとつ余計なお世話をしてもよろしいでしょうか?」
「え? あっ、はい」

 マスターは言うなりカウンターに両肘をついた。
 つられるように私も身を小さくして耳を向ける。
 両手を合わせながら、マスターはひっそりと話しはじめた。

「修司がここにくるようになったのは、1年ほど前です」
「そうなんですか?」

(相談所はともかく、ここにきたのもけっこう最近なんだ)

 頷きながら続きを待つ。



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