それはバーの片隅で

「……御崎さん……もしかして」

 少し低くなった篠原くんの声に肩が揺れた。

「修司。……お戻りですよ」
「あ」

 穏やかなマスターの声に促されて奥を見た篠原くんは、名残惜しそうに私を見る。
 今の私がどんな顔をしてるのかわからない。
 わからないけど、見られたくない。

「……帰らないでくださいよ。……あとで話したい」

 うつむく私の耳にそっとささやいて、篠原くんの声が離れた。



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