それはバーの片隅で

(…なんでこんな、気まずいの)

「……あの、戻ろっか」
「その前に確認してもいいですか」
「なに」
「こっち向いてください」
「……なに」

 おそるおそる顔を上げる。
 あの顔があった。

「ほっぺ、赤い」

 伸びてきた篠原くんの手が、また私の頬にふれる。
 ふれたところがジリッと熱を持ち、ぞわりと全身に広がっていく。
 この感覚を知っていた。長い間忘れていたけど、知っていた。わかりたくなかった感情の正体を嫌でも認めざるをえない。

「……修司くん。あんまりこういうことしない方がいいよ」
「え? なにをです?」
「相談所を開いてくれるのはうれしいけど」

 そっと篠原くんの手首をさわって、私の頬にのびる手をさげさせた。

(……やさしいのは私にだけじゃない)

 今まで見てきた女の子たちを思い出す。

(篠原くんはやさしい)
(疲れてる人をほっとけない)

「簡単に女の顔とか、さわったらだめだよ」

(勘違いしちゃうから)

 無理矢理笑おうとしたその時、私がふれているのと反対の手が私の手首を掴んだ。



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