それはバーの片隅で
(それが……)
(こんな年下の男の子が、甘やかしたいって?私を?)
篠原くんは視線を逸らさない。
社内で顔を合わせるときはけっこうそっけなくて、というか誰にでも淡々としていて。ここでは反対と言っていいほどに軽い男という印象だったけど、その実誰にも言えない悩みなどを抱えた人たちを受け止める役割を担っていた。
「ね、御崎さん。俺のこと。恋人候補に」
「……、…っ」
考えれば考えるほど顔はどんどんほてっていくばかりで、やっぱり声が出てこない。
最初こそ多少は不安がっていたらしい篠原くんも、ごまかしきれない私の状態を見て唇の端を上げた。
「あれ……その顔。もしかして期待してもいいですか?」
(だからなんでそんな余裕なの)
くやしくて、篠原くんの手に手をのばす。
大きくて少し冷たい手にふれた。身体の熱がすこしずつ逃げていくようで、落ち着く。
「……勝手に期待してれば」
「はい。勝手にします」
重なった手に、また力がこもった。