それはバーの片隅で
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「とても素敵なバーですね」
「光栄です」
「偶然だったけど、知ることができて嬉しいです」
「ありがとうございます」
繁華街から10分もしない距離。
普段立ち入らないわき道に、バーを見つけた。
地下への階段がアンティークみたいにオシャレな店。すでに多少のお酒が入っていたし、勢いもあってドアを開けた。
想像していたより静かな店内に少し圧倒されながら、いい年した女がそんなところを気取られるのは恥ずかしくて大人しくカウンターに腰を下ろす。
「えっとー……。とりあえずジン・トニックを」
「かしこまりました」
やさしそうな目元のマスターがほほえんで目をふせた。
(……こういうところ初めてなんですって言っても、笑わない人だ絶対)
わかっていても、かっこつけたい時もある。
私は改めて店内を見回した。
(派手じゃないけど隠れ家っぽくて、ホント素敵な――)
「……、…っ」
その時、小さくうめくような声が聴こえた。