それはバーの片隅で
「ねーねー。それ、俺にくれるの?」
「なんで。自分で飲むよ」
「……はるかさんカクテルの意味とか知らない人?」
「気にしたことない。飲みたいものを飲む」
「おっとこまえだよねー。そういうとこ大好きだからいいけどさ?マスター。オレ、ジンバックね」
何やらぶつぶつ言い出した修司くんを放っておいて、店内を見回す。
いつも奥にいた相談所の男の子は今、私の隣に座っている。
「……最近相談所やってないけど、いいの?」
「やってもいいの?」
「なんで逆に質問?」
「だってほら。はるかさん妬いちゃうでしょ」
「……!何言って」
「ヤキモキして冷たいこと言っちゃうくらいには、妬いちゃうでしょ?」
修司くんはニヤッと笑った。
(あの日のこと、バレてたんだ)
告白してくれた日。
女の子にやさしくしている姿が苦しくて、八つ当たりみたいなことをした。
情けないやら恥ずかしいやらで記憶から抹消してしまいたい。
「……もうしないから」
「ホントー?」
「だって、修司くんに救われた子がいるのは本当でしょ?男の人だっていたんでしょ」
「……マスターから聞いたな」
「どこにも吐き出せない人の、そういう場所はうばいたくない」
「……そっか」
頭にそっと、修司くんの手が乗せられる。