それはバーの片隅で

「や、やめてください」
「あはは。飲んだりしないって。ねーマスター、彼女と同じの」
「あのな修司。こちら初めてのお客さまだ。無粋な真似はやめろ」
「そうだったそうだった。いきなりごめんね?」
「……いいです、けど」

 修司と呼ばれた男を改めて見る。
 短髪で一見さわやかにも見えるけど前髪を遊ばせていて、それが妙に似合っていた。同時に遊んでそうだという単純な感想もついてくる。
 照明がオレンジがかっているから本当の色はどっちかわからないけど、黒かネイビーっぽいVネックのTシャツにくるぶしが見える丈のパンツ。
 ここまでラフだと逆に慣れた印象だ。

(……あれ?この感じ…)
 
 顔はよく見えなかったけど、服装や髪形で思い出した。
 この男はさっき泣いていた女性の向かいにいた―――

「追いかけなくていいんですか」
「ん?なにが?」
「彼女、泣いて帰っちゃいましたよ」
「さっきの子?なら彼女じゃないよ?」

(はあ?)

 彼女じゃない女の子を泣かせているのも大問題だと思うけど。


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