それはバーの片隅で
唖然としてしまい、言い返そうとして開きかけた口が止まる。
男―――修司が見透かすような目で私を見つめていることに気付いたからだ。
(何…?)
眉をひそめながらも本題に戻る。
「で、でもあの子泣いてたじゃないですか」
「んー?まあそれは色々あってねえ」
「…失礼します。修司。ジン・トニックだ」
「あーマスター、ありがと」
マスターにひらひらと軽く手を振った修司は、私に向かってグラスを軽く掲げた。
「……?なんですか」
「偶然の出会いに、乾杯。なんてね」
「………」
なんというかもう、ドン引きだ。
今の私はきっとチベットナキギツネのような目をしていると思う。
(女の子泣かせたあとに他の女に乾杯とか)
(どんな神経してるのこの男)
(てかどいつもこいつも男ってやつは)
そんな私を見て、修司は肩をすくめてふふふと笑った。
「なんか色々言いたそうな顔してるね」
返事をする気にもなれない。
黙ったままグラスに口をつけると、勢いよく中身を飲み干した。
「……ぷはぁ。マスター、次は強めでスッキリしたやつを」
「ねえ、その飲み方よくないよ?やめておいたほうがいいって」
「あなたには関係ないでしょう」
そもそも、接待での最悪な気分を晴らすために飲み直そうとしていたのだ。
初めてのひとり飲みでこんな素敵なバーを見つけられたのに、この男のおかげでまた最悪な気分になった。
この男のせいでお店を出るのも腹立たしいので、とことんお酒を楽しまないとやってられない。