それはバーの片隅で
「マスター、今のはこの人が勝手に」
「この件に関しては私も修司に賛成です。今の貴女に合うものをお作りいたしますから」
「…マスター……」
マスターの声は、小さな子供を諭すように優しい。
素直に私の事を心配してるんだと思えた。マスターに関しては。
「それで?」
私とマスターのやりとりをにこやかに見ていた修司は、まるでさっきの話の続きをどうぞと言わんばかりに促してきた。
(…この男にだけはそんな風に思えない)
「それでって、何がですか」
「ヤケ飲みしたいくらい相当嫌なことあったんでしょ」
「べつにありません。あってもあなたに関係ありませんから」
「そう言わないで。グチでも何でも聞くよ?」
「間に合ってます」
妙に食い下がる修司を、椅子の角度を変えて改めて正面から見つめた。
……目の感じとか、肌の感じとか、見た目からわかること。
(よく見ると年下っぽい……)
(なんでこの子にグチなんて)
「っていうか、初対面の女相手にそんなこと言います?」
一瞬、修司の眉毛がぴくりと動いた気がした。
でもすぐに戻って、へらっと笑う。