あの夏の空に掌をかざして


 うずくまっていた昔のあたしにも、それは聞こえていた様子で、男の子の方を振り返った。


 その上では、ギシギシと嫌な音を立てた古い看板が、壁と繋がっていた部分から、ミシリと剥がれ始めていた。


 そして、


『っぅわぁぁぁぁぁ!!!』


 男の子は走り出した。


 うずくまっていたあたしをドン!と押して、その場に転んだ。


「っっ!?」


 グシャリ


 あたしは、その瞬間を見ることが出来なかった。


 手で顔を覆った外側には、男の子の酷い有り様が、間近に在るはずだから。


 あたしは、鮮血の10円玉のような匂いを感じながら、また意識を遠退かせたのだった。
< 110 / 203 >

この作品をシェア

pagetop