あの夏の空に掌をかざして
うずくまっていた昔のあたしにも、それは聞こえていた様子で、男の子の方を振り返った。
その上では、ギシギシと嫌な音を立てた古い看板が、壁と繋がっていた部分から、ミシリと剥がれ始めていた。
そして、
『っぅわぁぁぁぁぁ!!!』
男の子は走り出した。
うずくまっていたあたしをドン!と押して、その場に転んだ。
「っっ!?」
グシャリ
あたしは、その瞬間を見ることが出来なかった。
手で顔を覆った外側には、男の子の酷い有り様が、間近に在るはずだから。
あたしは、鮮血の10円玉のような匂いを感じながら、また意識を遠退かせたのだった。