あの夏の空に掌をかざして
 291回、あたしは瞳を開いて、生きていることを実感した。


「いきてる……」


 手をグーにしたりパーにしたりして、感覚を確かめる。


 ケガもすっかり治り、ピンピンしている。


 でも、それは前々喜ばしい事じゃなくて、その手をぎゅっと握りしめる。


 そうしても、込み上げてきて一抹の絶望感は、どうしても誤魔化すことも拭うことも出来なかった。


 …あたしは、日向を助けることも、死ぬことも出来ないんだ。


 そう思ったら、虚しさが胸いっぱいに広がって、鼻の奥がツンとする感覚がした。


 目の前が滲む。


「ふ…うぅ……うっ…ひっく……ぐずっ……うぅぅ……もうやだぁ……」


 頬を伝る大粒の涙は、拭いても拭いても、止まる気配がない。


 やだ。やだ。あたしばっかこんな寂しいの、もうやだ……!


 最初は、殺した泣き声だったものが、いつの間にか大きな叫び声になって、部屋に響いていた。


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