あの夏の空に掌をかざして
「……あ、」


 突然声を出したあたしに、日向は不思議そうな顔をした。


 片付けを終え、宿題にとりかかって約30分。あたしは姿見に映った自分の姿を見て、声を出してしまったのだ。


 ……あたし今、部着じゃん。


 あんなに時間をかけて迷って、あげくに遅刻までしてしまったのに、あたしは結局、寝間着のまま、部着で日向と会ってしまった。


 わぁ、最悪じゃんもう、これじゃいつもと変わんないよ!


 ため息をつきそうになるのを、寸でのところで我慢して、未だに不思議そうな顔であたしを見つめる日向になんでもない、と言って、日向の向かいに腰を下ろしてまた宿題を開始した。


「どうしたの?さっきから様子がおかしいよ?」


「なんでもないってば、日向が心配することは何もないから」


 眉を八の字に曲げてあたしを心配そうに見る日向を一瞥もせずに言い返す。いつもと変わらない日向に少しイラついて、トゲのある言い方をしてしまった。


 はぁ、この顔、子供扱いしないで……あたしは日向が考えているほど幼稚じゃないのに……。


「あぁ、もしかして、友達と出掛けにでも行くの?だから服えらんでたの?僕も一緒に選んであげよっか?」


 日向は良いことを思い付いたとばかりにあたしに提案してきた。それがとてもいい笑顔で。"男と"っていう発想もなくて。


 …なんでこんなにデリカシーがないんだろう、あたしは、あたしが迷ってまで服を選んだりしてたのはーーーーっ!!


 思いがけない衝動に駆られて立ち上がる。見下ろす先には、驚いた日向の顔。


 日々のイライラが募って、ついに爆発してしまった。


「もう!いいでしょ何でも!ほっといてってば!!」

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