あの夏の空に掌をかざして


 荒くなる呼吸、震える拳に、激しく上下する肩。


 ハッとして、ボヤけていたピントを日向に合わす。


「あかりちゃん……」


 傷ついたような顔で、あたしを見つめ返す日向。やってしまった後で、罪悪感が胸の中に押し寄せる。


「ぁ…………ちがっ、あたしはっ、ただ……」


 どうしよう、傷つけてしまった。悲しませてしまった。


 日向は何も言わず、あたしも何も口に出せずにいて、重い沈黙が、見つめ合うあたし達の間を漂う。


 何か言わなくちゃ。言わなくちゃ。謝らないと、いけないのに。


「ーーーーーっっ!」


「っあかりちゃん!」


 あたしは部屋から逃げ出した。日向があたしを呼ぶ声がしたけど、あたしは、逃げ出してしまった。


 1階に下りて、玄関を出て、なんでか知らないけど、いつの間にかあたしは、隣の家の日向の部屋にいた。


「はぁ、はぁ、はぁ、……」


 ドアに背を預けて、ずるずると座り込む。早鐘を打つ鼓動を落ち着かせるように、胸に手を当てて、背中を丸める。


 …誰の声もしなかった、日向の家、誰も居ないのかな。鍵も開いてたし、不用心だなあ。


 落ち着いた頭で、そんなことを考える。


 バカだなあたし、こんなとこ、すぐバレるに決まってるのに。


 日向の部屋は、あたしのうるさい心臓に反して、とても静かで穏やかだった。


 シンプルな紺とも藍ともとれる色のベッドに、木製でどこか温かみのある勉強机とタンス。女子みたいにごちゃごちゃしていない、男子らしい日向の部屋は、あまり変わっていない。


 …日向の匂いがする。鼻を優しく掠める、日向のせっけんみたいな香り。


「っ!」


 玄関から物音がした。ゆっくりゆっくり、階段を上がって、ここに近づいてくる足音がする。
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