あの夏の空に掌をかざして
 家に帰ってきて、あたしは真っ先に部屋に向かった。


 服もそのままに、あたしはベッドにダイブした。


「また一緒に行こう……か」


 日向の、何気ないあの一言が、ずっと心の中で木霊していた。


 分かってる。日向は何にも知らないから。悪気もないし、故意に言ったんじゃない。そもそも、日向は、そんな人じゃない。


 分かってる。


 けど。


「…また、なんて……あと何回、行けるんだろうね」


 あたしのひねくれた思考じゃ、そんなことしか考えられなかった。


 300回を超えると、あたしは消える。これはもう、あの男の子の存在がそれを真実だと裏付けている。


 300回まで、あとチャンスは8回。


 その中でヒントを見つけるなんて、無謀すぎる。今までの292回でも、分からなかったんだから。


 あたしの希望は、あの不思議な夢だけ。


 日向から元気を貰っても、もし消えた後の事を考えると、背筋がゾッとするのを感じた。


 きっと、家族からも友達からも、楓からも、日向にだって、あたしは忘れられる。


「日向…寂しいよ…怖いよ」


 あたしの頬を伝った涙の粒は、仄かに枕を濡らした。
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