あの夏の空に掌をかざして
 あたしは反射的に立ち上がり、後ろ手でドアの鍵を閉める。


 鍵を閉めたのと、ドアをノックする音が聞こえたのは、ほぼ同時だった。


「……日向?」


 自分でも驚くくらい、弱々しい声だった。


 後ろから「うん…」という声がする。どうやら、あたしなんかを追ってきてくれたらしい。


 何で……追ってなんかくるの、期待…しちゃうじゃん……。


 なんて思ってても、心のどっかでは嬉しく感じてる自分もいて、そんで更に自己嫌悪。


「あかりちゃん」


「……なに」


 気持ちとは裏腹に、すごく不機嫌そうな声。あたし、どこまで性格悪いんだろう……。


「ごめんね、なんでそんなに怒らせちゃったのか分からないけど、きっと僕が悪いんだよね、ごめんね」


 違う!日向は何も悪くないよ!あたしが…あたしが日向の事、好きになっちゃったから、だから、あたしが全部悪いのに。


 日向の声は、本当に申し訳なさそうで、心当たりもないくせに、どうしてそんな風に謝れるのか、あたしには分からなかった。


「あかりちゃん、もしあかりちゃんが僕のこと嫌いになっても、僕はずっとあかりちゃんのこと、大事な人だと思ってるから、」


 握った掌に、グッと更に力をこめる。


「言いたいことはそれだけなんだ、じゃあね」


 今すぐ会いたいって、今じゃなきゃダメだ、って思った。


「っ日向まって!」


「わっ!」


 あたしは考えより早く、ドアを開けて、日向に抱きついた。勢い余って日向が尻餅をついてしまった。


 いてて、という日向の言葉に気が回せないほど、その時のあたしは衝動的に動いていた。


「っあたし、違うの、日向は悪くないの、遊び、誘いたくて、日向の事きらいじゃない!大好きだよ!」


 だんだんごちゃ混ぜになるあたしの話を、日向はちゃんと聞いてくれる。ぽんぽんって、優しく背中を撫でて、「うん、うん、そうだね」って相づちを打ちながら。


「じゃあ、遊びにいこっか、夏休みの最後の日」


 柔らかく微笑みながら、うつ向いているあたしの頬を拭ってくれる。


 ーーーあぁ、視界が滲んでいると思ったら、あたしは泣いていたのか。

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