あの夏の空に掌をかざして
 ハッとしたときには、もうそこはあたしの部屋だった。


「……どういうことなの?あの男の子は……陽くん?ていうの?」


 "陽"という名前なら、あたしが思い付く限り、日向達が飼っているポメラニアンの"陽ちゃん"しか思い浮かばない。


 でも、陽ちゃんは女の子だし、何よりわんちゃんだ。


 だけど、これを偶然で片付けて、いいんだろうか。


「もう…どうすればいいの?分かんないよっ」


 呟いた声は掠れていて、なんだか泣きたくなった。


 あの男の子が日向なんじゃないとしたら、あれは成功したわけではないのだ。


 だから、あたしはあの子を覚えていなくて、あの出来事も忘れている。


 目の前が、じわり、じわりと滲んでゆく。


 怖い。あと、一回しかないんだ。


 唐突に、現実を見せつけられた気がした。


 希望を、打ち砕かれた。


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