あの夏の空に掌をかざして
 それだけじゃなくて、クラゲ自身も発光していたのだ。


 ひとつの水槽に、十数匹のクラゲが光ったり消えたりを繰り返しながら泳ぐ光景は、幻想的で何とも言えないミステリアスな雰囲気を醸し出していた。


「本当だ、すごく綺麗だ」


 背後から、日向の優しいテノールがして、ドキリとした。


 水族館に来ている人が多くて、この部屋でも多くの人がごった返している。


 こうしているのもちょっと狭くて、すぐ背中に日向の体温を感じた。


「ごめんね、ちょっと狭くて」


 耳元で、囁くような日向の声がする。


「………ううん」


 あたしは、そう言うことしか出来なかった。


 今は、きっと顔を見せられない。
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