あの夏の空に掌をかざして
「呼んだ?」


 あたしが不意に呟いた言葉に、日向が反応する。


 ハッとしたあたしは、慌てて何でもないと言う。


「ねぇ、これとかお土産にいいんじゃない?おばさんに買ったら?」


 そう言って日向が差し出してきたものは、色んな魚がプリントされたクッキーだった。30個入りで、可愛いしお土産なんかによさそうだ。


「…そう、だね」


 だけど、あたしにはお土産を渡すことも出来るのか分からない。


 こうやって、たまにあたしと周りの"ズレ"を感じることが、こんなにも辛い。


 だけど、それで終わっちゃ、何にも出来ないから。


「っうん!それにするよ!」


 あたしは、絶対に帰るんだ。生きるんだ。日向と。


 だから、これは、その第一歩。


 生きて、帰って、そして、お母さんにこれを渡す。


 たったそれだけでも、あたしには、今最高の目標に思えた。
< 169 / 203 >

この作品をシェア

pagetop