あの夏の空に掌をかざして

「そう!あたしね、誘うことできたんだよ!水族館行くことになったの」


 夜、あたしは今日も楓に電話をかけた。2日連続で夜にかけるのは迷惑かなとも思ったけど、まだ7時だし、なにより、親友で恋愛相談にものってくれた楓に、一番に話したかったから。


『へ~、すごいじゃん!やったね!おもいっきし楽しんでこい!』


「うん!…けど、ちょ~っと問題があるんだよね~…」


 おどけてみせるけど、楓は「どうかしたわけ?」って、心配そうに訊いてくる。


「あ!でもそんな楓が思ってるほどのことじゃないんだけどね、」


 ほんとに、そんな深刻なことじゃない。今日も日向が家にくるまで悩んでいた問題だ。


 ーーーそう、可愛い洋服を持っていないこと。


 今まで、そういうことを気にかけてこなかったせいか、持っていた衣類はほとんど、年上の人からのお下がりだった。


 お下がりには今流行している服はひとつもないし、可愛いとも思わなかったけど、あたしは年中部着を着ているような子だったから、あまり気にしてこなかった。


 けど、出掛ける目的は日向との"デート"だから。あっちはそう思っていなくても、あたしにとっては、一番大好きな人とのデートだから。可愛いカッコで一緒に歩きたい。


『いや、それめっちゃ重要じゃん!よそ行きの服1着もないとか、あんた女子としてどうなの?』


「ちょっと~!それ、どーゆー意味~?」


 楓の言葉にごちるけど、確かにそうだ。高校生にもなって、これはヤバイかもしれない。


『よし、私が選んであげるよ!今度一緒にショッピングいこ!んで、ついでに遊ぼうよ!久しぶりに!』


 楓の提案に驚いたけど、ありがたくそうしてもらうことにして、あたしたちは通話を終了した。


「あ、×つけとかないと」


 あたしは、日向とのデートまで、カレンダーに×を付けることにしたのだ。


 キュッと鳴らしながら、油性ペンで今日の日付にバツ印をつける。


「これでよし!」
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