あの夏の空に掌をかざして
「それって…じゃあ、今あたしの目の前にいる陽くんは……」


「そう、ボクは"想いや記憶"の塊なんだ、浜崎陽の」


 あたしの言葉の続きを、陽くんが言った。


 それじゃあ、本当の陽くんは………?


「陽は消えたんだってば」


 また、心を見透かしたように、目の前の"陽くんの一部"はあたしに焦れたように言った。


「ここではね、何でも分かるんだ!相手の次の行動、気持ち、思ってること、記憶までね」


 成る程。だから、さっきからあたしの考えていることが分かったのか。


「………無になったら、どうなるの」


 一番恐怖を感じていたことを、口にした。


 陽くんは、あたしの方をじぃっと見て、ゆっくりと首を左右に振った。


「知らない方が、いいこともあるよ」


 そして、悲しい顔をした。


 心の奥が、どくんどくんと鳴る。
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