あの夏の空に掌をかざして
 ドンッ、と日向を押す。


 不意を突かれた日向は、咄嗟のことに判断が追い付かず、よろめいた。


 驚いて、少し子供っぽい顔をした日向に、自然と頬が綻ぶ。


 反対に、あたしは力いっぱい後ろに跳ぶ。


 もう近くに、大きいトラックが、こちらに猛スピードで走ってくるのが見えていた。


 日向の目は、驚きに見開かれていた。


 涙が乾いて、クリアになった視界では、日向の姿がバッチリ見えていた。


 トラックが迫ってくるのが、手に取るように感じる。


 けど、それよりも、日向の存在に安心した。


 怖いけど、不安はない。


 大好きな人と、両想いになれた。


 それだけで、充分だ。


 大好きな人の前で、消えられる。


 それだけで、幸せだ。

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